今回の読書ノートは『Aligned』。原題は "Aligned: Stakeholder Management for Product Leaders”。 そのタイトルの通り、プロダクトマネージャーが避けては通れないステークホルダーマネジメントの話。非常に非常に面白かった。
意外だったのが、本書の半分くらいを占めるビジネス小説部分が予想以上に面白かったことである。ちょっと軽めのTHE UNICORN PROJECTを読んだくらいの読後感が有った。ステークホルダーとAlignedしていくためのプレイブックと並行して、PdMである主人公「アイリーン」がステークホルダーに向き合ってプロダクトマネジメントを進めていく物語が展開される。
あと自分は物理書籍を買ったのだが、ページの色やフォントなどに非常に意図された仕掛けと言うか遊びがあるのも良かった。物理書籍を手に取れる方は是非。
サマリ
本書の構成は「組織」「人」「ラポール」「信頼」「ロードマップ」「変化」「挑戦」の7章+エピローグ。各章でフレームワークやツールの説明があり、それと並行して架空の中堅PdMアイリーンが新しい会社に転職してステークホルダーと奮闘するストーリーが進む。
想定読者はおそらくプロダクトマネジメントに関わる人々…だが、昨今「プロダクトマネジメント」の要素自体がプロジェクトマネジメントにも滲み出ているので、プロジェクトマネジメント関係なく単純にマネジメント本として面白く読めると思う。とはいえ本書はプロダクトマネジメントに関わる人にほど勧められる。
例えば「プロダクトマネージャーのしごと」が刺さった人には、間違いなく2冊目としておすすめできる。自分の2023年のお気に入り本だ。
自分はアイリーンほどの立場ではないにしても、プロダクトマネージャーを数年やっており、中々読んでいてつらい所も多かった。自分の実感としても、コードベースやビジネスが一定のサイズを超えれば、次のボトルネックは、人、というかステークホルダーになる実感を日々感じているからだ。
苦闘するアイリーンの物語
少し物語の話をすると、プロダクトマネージャーとして転職してきたアイリーンを囲むステークホルダーとして、創業者、COOやカスタマーサポート、セールスなどなどが登場する。皆それぞれが違うことを考えていて、そこをアラインしていく過程が物語になっている。とくに物語でアイリーンを最も振り回すステークホルダーは中々に厄介で、物語の後半は殆ど「彼」に振り回されることになる。(ネタバレになるので深くは書かない)
どれだけ理不尽に思えるステークホルダーにも事情がある
自分が感じ入ったのは、本書が一貫して『どれだけ理不尽に見えるステークホルダーにもその人なりの事情がある』姿勢を崩さなかった事だった。何度か「この状況なら諦めてもいいのでは?」と思える場面も出てくるし主人公も退職を考えるのだが、最後までアイリーンはステークホルダーに向き合い、物語は一定の結末を迎えることになる。勿論そのためのノウハウが色々と紹介されるのが本書なのだが、自分は物語の全てに通底する、この他者理解への姿勢が最も共感できたかもしれない。
本書内でも言及が有った気がするが、このあたりは前に読んだ「NVC 人と人との関係にいのちを吹き込む法 新版」に通じるかもしれない。
その他ピックアップ
ここからは本書のプレイブック部分で紹介された内容のうち、留め置きたいものをまとめる。
「アラインメント(Aligned)」の定義(はじめに)
本書におけるアライメントの定義は「全員を思い通りに動かすことではなく、全員がプロセスに関与していると感じ、目指す方向を理解し、プロダクトの成功のために一緒に働くことをコミットすること」とされている。みんなが思い通りに動くわけでもなければ、みんなが欲しいものを全部もらえるわけでもない。でも全員が方向性を理解してコミットしている状態を作ること。ステークホルダーマネジメントとはこのアライメントの状態が取れているかを確認するプロセスでしかない。
→ 当たり前だが「全員が同意している」事を理想としないのがミソだ。いわゆる「Disagree and Commit」と同じ。(この「Disagree and Commit」は、実践しようと思うほど、言うは易しだと思う)
専門性と自信と当事者意識(4章:信頼)
信頼されるためには自分の専門性を見せるのが必要なところがある。この時は専門性を語るのではなく見せることが重要。相手の言葉で話して、自分の関連する経験を共有する。
自信とは無根拠に「自分はできる」と思うことではなく、自分の能力を信じること。意思決定をステークホルダーに伝えるときに自信がなさそうだったら、そもそも伝わらない。これは精神論ではなく実務的な話で、自信を示す方法はちゃんと準備をしていること、答えのすべてが揃っていなくてもその透明性を示すこと。裏を返すと、PdMとして「こいつはちゃんと意思決定ができる」と思わせたかったら、それだけの専門性を相手の言葉で話せていて、かつ準備してきたことを示して、わからないことも含めて透明にしている状態が必要。
さらに当事者意識のレベルが3段階で示されている。一番低いレベルが「うまく実行する」、次が「ステークホルダーを巻き込む」、そして最高レベルが「積極的になる」――つまり特に言われなくても必要なことは全部やる。誰かに言われる前に積極的に取り組み始める、問題を他人が見つける前に解決策を提案する。
→ 正直自分はこの全部ができているか?を一番考えてしまった章だった。特に「当事者意識」は「うまく実行する」「ステークホルダーを巻き込む」でも日々のタスクは進められてしまう。自分は積極的になれているだろうか。
相手のモロさを受け止める(3章:ラポール)
相手が話している中で自分の間違いを見つけたとき、その間違いを責めるのではなく受け止めてあげるとよい。相手のモロさを受け止めてあげると、「この人ならモロさを出しても大丈夫だ」と相手に思ってもらえる。そして自分が先にモロさを見せると、相手も見せやすくなる。
→ 良い言語化だと思った。ちょうど「失敗できる組織」で似たような話を聞いた所だった。
パワーアライメントグリッド(1章:組織)
レポートラインの組織図は影響力の組織図ではない。組織図ではわかりづらいが実際に影響力を持っているパワープレイヤーは往々にしている。権力×アライメントの4象限(パワーアライメントグリッド)で整理したとき、権力は強いがアライメントが弱い「要注意者」を協力者にいかに引き込むか。
有効な対策としては、自分のプロダクトをパワープレイヤーの成功に関連づけるか、パワープレイヤーを自分のプロセスに引き込むのが効果的。(例えば意思決定の途中で素直に意見を伺ってみると、意外とあっさり仲間になってくれることもある)。
→ わかる。特に相手のインセンティブを把握したうえで「自分のプロセスに引き込む」のは経験上、効果的だと思っている。
DACIモデル(1章:組織)
意思決定文化には指示型・民主型・参加型・コンセンサス型の4種類があり、プロダクトマネジメントに推奨されているのは参加型。その参加型を回すためのモデルとしてDACIが紹介されている。Driver(推進者)、Approver(承認者)、Contributors(貢献者)、Informed(通知対象者)の4つの役割で、ポイントは推進者と承認者は1人ずつにすべきということ。
→ わかる。これを1人ではなく複数人にすると半端に民主型になって大抵機能しない。
ステークホルダーディスカバリーインタビュー(2章:人)
ステークホルダーとの対話はカスタマーディスカバリーインタビューに非常に似ている、という指摘。聞きたいことは結局、その人がどのように仕事をしているのか、どんなインセンティブがあって、どんな評価をされるのか。
→ わかる。特に「どんなインセンティブがあるのか」は自分も必ず探るようにしている。
退職のフレームワーク(7章:挑戦)
扱いづらいステークホルダーに疲弊したとき、辞めたいから辞めるのではなく、退職すべきか残るべきかを判断するためのフレームワーク。このまま行くと未来で起こりそうなことを考えて、辞めた場合と辞めなかった場合の期待値を計算する。さらに「何月までにこれが起こらなかったら転職活動を開始する」という基準を決める。
→ なかなかよくできている。
以上。また読み返したい良い本だった。








